『悪い』という言葉


昨今、日本にも認知科学やコーチングが浸透し、「自分に言い聞かせる技術」であるアファメーションの手法も、スポーツ選手やリーダー志望の人達を中心に実践されるようになってきた。
もちろん、私自身もそうだし、このブログの読者の方々も、日々改良を加えながらアファメーションを唱えている事と思う。

が、しかし・・・

そうやってアファメーションを組み立てているうちに、改めて日本語の難しさや、「マズイ部分」に気付かれた方も多いのではないだろうか。
最近、私が気付いた「日本語のマズイ部分」に、「一つの単語や慣用句が複数の意味合いを持つ場合」というのがある。
それも、内容が能動的、あるい楽観的な方向にのみ複数の意味合いを持つなら良いのだが、問題は受動的、あるいは悲観的な方向に複数の意味合いを持つ場合だ。


その最たるものが「悪い」という言葉だ。

目を閉じて、貴方がどういう場合に「悪い」という言葉を使うか、日常をシミュレーションしてみて欲しい。
きっと、二通り以上の使い方をしている筈だ

「大丈夫?顔色が悪いよ?」
「あーあ、天気が悪いなぁ・・・」
「分かった、この部品の動きが悪かったんだ!」
「先方に悪い事しちゃったなぁ・・・」
「アイツは、なんて悪い男なんだ!!」

今さらながらに、この言葉の使用範囲の広さに驚かれるのではないだろうか。

この「悪い」という言葉が使われる状況を大まかに整理してみると、
一、自分の理想や予想に反する状態が顕現した場合。
二、正常とされる状態からの逸脱が認められる場合。
三、人間感情における悪意が感じられる場合。
となる。

いや、私は別に言語学の講釈を垂れたいわけではない。
もっと単純に、この言葉を貴方の目の前に居る人間に対して言ってはならない、と主張したいのだ。

上に挙げた三つの状況を英語に直してみれば、一目瞭然でお解かり頂けるだろう。

即ち、
一、dislike,unbelievable(嫌だなぁ、信じられないなぁ)
二、failure,mistake(故障や衰弱、技能的失敗)
三、evil(悪意)
となる。

日本語の「悪い」という言葉は、これら三つを区別せずに、ゴチャ混ぜの状態で使われているのだ。

想像してみて欲しい。
貴方が仕事で、ちょっとした失敗(mistake)を犯したとする。
例えば、書類を30枚コピーして各部署に配らなければならなかったのに、用紙が足りなくて20枚しかコピーできなかったとしよう。
貴方はすぐに、それを上司に報告する。
「課長、コピー用紙が足りないんですけど、今有る分だけ先に配った方がいいですか?それとも、用紙を買ってきて全数揃えてからの方がいいですか?」
しかし、正直に報告した貴方に対して、上司から容赦の無い叱責が飛んでくる。


「そんなの自分が悪いんだろ!!サッサと用紙を買って来い!!」

さて、この場合、コピー用紙が残り少ない事に気付かなかったのは、確かに貴方自身の「失敗」かもしれない。
しかし、「悪意ある行為」なのだろうか??
当たり前の話だが、誰だって好きで失敗を犯すわけではない。
もしも、最初から「悪意」を込めて事を起こすのなら、コピー機をブッ壊すぐらいの事はするだろう。

しかし、脳科学を勉強している方なら御存知の通り、無意識や感情は同音の言葉を区別しない。
上記の例で言うなら、貴方は「失敗」を犯しただけなのに、上司によって「悪意ある人間」に仕立てられてしまい、そして、何度も言われるうちに、自分でも「はいはい、私は悪い人間ですよ」と思い込んでしまうようになるのだ。

どうだろう、「悪い」という言葉を使うのが、もはや恐ろしくなってきたのではないだろうか?

しかし、そうは言っても、貴方がいわゆるリーダーの立場(親、上司、教師等)であり、目の前の人間に対して、どうしてもその「失敗」を是正してもらわなければならない時もあるだろう。
そういう時は、決して「悪い」という言葉は使わずに、客観的な事実の指摘と、改善へのヒントをセットにして提示すれば良いのだ。

例えば、貴方の部下に遅刻の常習者がいたとする。
遅刻、それ自体は確かに会社のルールに違反する事だし、実際に現場の生産性も下がるだろう。
その時は、以下のように言ってみたらどうだろうか。

「今月、三回目の遅刻だね。目覚まし時計を2個セットしてみたらどうだい?」

上記の言い方であれば、三回目の遅刻という「事実」は指摘するものの、ちゃんと「改善案」もセットにして提示しているので、相手の人格まで貶める事はない。
もしも、そこまで配慮しても部下が相変わらず遅刻してくるようであれば、その時は「改善の意思無し」と見做して、社内規定に則って粛々と処断を下せばよいだろう。

「悪い」という言葉を使っても、貴方にとっても相手にとっても、「良い事」は一切無い。
【広告】

0 件のコメント :

コメントを投稿