【連載】うつ病予防マニュアル 第一回

鬱病が起こるメカニズム


 最新の脳神経学の知見では、鬱病は、ストレスによって脳の神経細胞の突起(細胞同士の連絡を担っている部分)が委縮する事によって引き起こされるという仮説が定着しつつある。(参考文献「うつ病の脳科学」加藤 忠史著)

 ごく大雑把な表現をするなら、神経細胞同士の連絡が断たれてしまうので、脳内での情報の遣り取りが滞る、すなわち「物事が考えられなくなる」という事だ。これは、鬱病の罹患経験者なら、誰もが頷く事だろう。
 たまに、気分が多少落ち込んだだけで「今日は最高にウツです」などと軽々しく言う人がいるが、そんな生易しいものではない。文字通り「頭の中が灰色」の状態が毎日続くのだ。

 しかし、解っているのはここまでである。いや、実際にはマウス等を用いた動物実験で神経細胞の委縮が発見されたために、「人間の脳でも似たような事が起こっているのだろう」という仮説が立てられただけであり、「未だに正確な事は解りません」というのが現状なのだ。
 「えっ、本当に??」と驚かれるかもしれないが、これには倫理的に仕方のない理由がある。

 「生きている患者の脳を、顕微鏡で直接調べるわけにはいかないから」

 なるほど、ごもっともである。そこで「次善手」として考案、設立されたのが、死亡後に献体された精神疾患患者の脳を直接調べる事を目的とした、骨髄バンクならぬ「脳バンク」であり、一応は日本にも存在する。

 福島県立医科大学の「精神疾患死後脳バンク」がそれである。
 (http://www.fmu-bb.jp/index.htm)

 だが、残念な事にと言うか、日本人らしいと言うか、この「脳バンク」が設立されて十年以上経た現在でも、保存されている脳は37名分、登録されているドナー数は125名程だという。

 しかも、その殆どが統合失調症患者であり、鬱病患者の脳は、実質的には医療先進国であるアメリカの脳バンクから取り寄せたサンプルを基に研究しているのが現状だ。
 なので、現時点で「そもそも、何が原因で鬱病は発症するのか?」という問いに答えるならば、医師でさえ「遺伝因子と後天的なストレスが複雑に絡み合った結果です」としか答えられないのだ。

 冒頭で「私にもウツについて語る資格がある」と述べた根拠は、まさにそこにある。
 精神疾患の治療は、車のエンジンに例えて言うなら「分解せずに故障個所を特定し、なおかつ、分解せずに化学薬品の注入だけで修理してみろ」と言われているようなものである。
 それを冗談抜きでやっているのが、日本の精神医療の現場なのだ。

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