【連載】うつ病予防マニュアル 第十一回

 ⑥自分だけの「お守り」を持つ

 誤解の無いように最初に重々断っておくが、ここで述べる「お守り」という言葉は比喩として解かり易いように、また、物理的なサイズとして手頃であるから用いているだけであり、宗教的な意味合いは一切無い。
 これは「アンカーとトリガー」と呼ばれる、認知科学を応用した「特定の意識状態を瞬時に引き出す技術」であり、昨今ではアファメーション(後述)と共に多くの著名人が実践している手法なので、皆さんにも積極的に採り入れてもらいたい。

 先ず、アンカーとトリガーという呼称、そしてその原理について説明すると、アンカー(anchor)とは船の「錨」の事であり、トリガー(trigger)とはもちろん、銃の「引き金」の事である。

 一見すると「錨と引き金」には何の関連性も無いように思えるし、私自身も「もっと上手いネーミングは無かったのか?」とは思うが、イメージとしては任意のタイミングで「引き金となる所作」を行うと、普段は水面下(つまり無意識下)に沈んでいた特定の意識状態(自信や喜び、あるいは冷静さ)がガラガラガラ…と錨のように引き上げられ、それが現在の意識状態にコピーされる、という事である。

 「過去の意識状態を現在の意識状態にコピーする」と能動的に書くと、なにやらとても難しい事のように思うかもしれないが、これを「過去の意識状態が現在の意識状態に上書きされる」と受け身の文章で書けば、偶然ではあれ、私達の日常生活の中で割と頻繁に起こっている現象であるという事が理解して頂けると思う。

 例えば、貴方が「今日こそは断捨離するぞ!」と決意して自室の整理をしていたら、何年か前に、友人と一緒に旅行に出かけた際に撮った写真が出てきたとする。そこで「うわ~、懐かしい!」などと叫ぼうものなら、もうアウトである。
 「現在の意識状態」であった筈の「断捨離するぞ!」がどこかに吹き飛んでしまい、貴方の脳内で「楽しかった旅行」という題名の映画が上映される事になるからだ。

 「この後、外国人に道を訊かれて慌てたなぁ…」
 「途中で立ち寄ったお蕎麦屋さんが美味しかったなぁ…」
 「この時買った招き猫の置物って、どこにしまったんだっけ?」

 ここまで書けば大半の人に「あるある!」と同意してもらえるとは思うが、この項では別に「断捨離が上手くいかない理由」について解説したいわけではない。
 この写真を「お守り」のように常に持ち歩いたとしたら、一体、何が起こるだろうか?と問いたいのだ。

 バッグやポーチに入れて、あるいはパスケースに忍ばせてこの写真を持ち歩き、何か嫌な事があった時、あるいは退屈を感じている時にスッと取り出して眺めるのだ。
 そして、先程と同様に「楽しかった旅行」の記憶が甦り、「嫌な事」や「退屈」を追い出して、その日を楽しい気分で過ごせたとしたら…

 その写真こそがトリガーであり、旅行の記憶がアンカーである。

 もちろん、写真は一つの例であり、実際には持ち歩いている内に折れたり汚れたりしてしまうだろうから、ラミネート加工をする等の工夫は必要になってくるとは思うが、写真ではなくとも同等以下のサイズであれば、腕時計、指輪、ペンダント、キーホルダー、手鏡、ネクタイピン等、実に様々な物を「お守り化」する事ができる。

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