「頭を冷やせ」という言葉の本当の意味が解る本
苫米地 英人氏や茂木 健一郎氏、加藤 忠史氏が「研究者」であるのに対して、著者は常に前線に立つ脳外科医、つまりは「実際に脳みそに触っている人」である。
その立場の違いが本書に色濃く反映されており、今まで研究者の本しか読んでこなかった素人である私から見ると、意外な事実の連続ばかりで、唯々、脱帽するだけである。
特に、日本のサッカーファンにとっては御馴染みであろう、元代表監督のイビチャ・オシム氏の命を救った「脳低温療法」を開発したのが著者であり、我々が普段、当たり前のように使っている「頭を冷やせ」という言葉の本当の意味を、医学的な根拠を以って詳細に説明している。
「壊れた脳を生き返らせる画期的な治療法」(40ページ)
「自分を守ろうとしすぎて壊れてしまう脳」(132ページ)
また、研究者達が脳波計やfMRI等を用いて「計測した脳の反応」と、著者が実際の手術の現場や病室で「目撃した患者の反応」の違いが、やはり、人間の脳と心の奥深い関係を物語っていて、実に勉強になる。
「頭をよくしたかったら、恋をしなさい」(34ページ)
「『意識は二つある』という仮説」(44ページ)
「頭のよさの発生源となる神経の連合体がある」(56ページ)
「スリの“職業技術”を奪った脳神経の手術」(174ページ)
特に、本書の特筆すべき優れた点は、既に確立された脳神経医学を、我々素人にも解りやすいように図解で説明しながら、尚且つそれをビジネスや教育にどうやって活かせばよいのかという方法論にまで、過去の実例(水泳の北島 康介選手の例など)を用いて拡充、展開している点であり、よくぞ、これだけの情報量を二百数十ページの本に込められたものだと思う。
「頭がよい」というのは、まさにこういう事なのだろう。
「実際に脳みそに触っている人」の言葉は、明快でありながらも重い。